本: 『徳川おてんば姫』

『徳川おてんば姫』読了。

著者は徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜のお孫さん井出久美子さん
大正10年に生まれ、平成30年にお亡くなりになったそう。
大正昭和平成を駆け抜けたまさに世が世であれば、将軍家お姫様である。

今年大河ドラマ『青天を衝け』に出てくる徳川慶喜(草彅剛)さんのお孫さんが書かれた手記かと思うとなかなかに趣深い。
ただ残念なことに、井出久美子さんが生まれた頃には祖父慶喜と父慶久は亡くなっていたため、直接触れ合ったというエピソードは出てこない。使用人の誰かが言っていたこと、母親が言ったこととしてその為人が出てくる。

美しい言葉選び、柔らかな語り口書かれており、全体通してとても読みやすい。
章立ても素晴らしく細かいエピソードごとにまとめられており、ちょっとした家事の隙間時間に読めるのがいい。
ただ、どのお話も面白くついつい読み進めてしまうのがいけない。もっとゆっくり読みたいのに。。。

女子学習院に通っていた頃のエピソードや、第六天(当時住んでいたお屋敷)で過ごすお正月のこと、軽井沢での避暑、どのお話も興味深いが、とりわけご自身の最初のご結婚相手選びのお話はよかった。
長く勤める使用人はじめ皆口を揃えて「薩長はならぬ」という。
まだまだ幕末を思わせるエピソードにはううむと唸った。

他にも、書は有栖川御流(日本橋の銘板を揮毫したのは徳川慶喜)を姉である高松宮妃喜久子殿下に習い、絵画を日本画家邨田丹陵(「大政奉還の図」を描いた人)に習っていたという。
今までの書や絵の作品を集めた個展を開かれた際には、高松宮妃に勧められ一筆箋や絵葉書を作られたとか。
老後はじめられた麻雀はかなり強かったらしいとか、さすが徳川慶喜のお孫さん、実に多趣味多芸でらっしゃる。

戦中・戦後のご苦労話はなかなか凄い。
まずその辺のお姫様がされるようなご苦労ではないが、育ちの良さなのか井出さんのご気性の良さなのか、恨みも苦もなくさらりと書かれているあたりに、そこはかとないお人柄の良さを感じた。
お若い頃の上皇后陛下に会われたことなど、まさに『生きた昭和史』を見ているような気分であった。

この本には数多くの写真なども掲載されており、読みながら当時の情景を知ることができるのも素晴らしい。
表紙をめくるとあらわれるイラストもいい。
可愛らしいお転婆姫さまが描かれている。

最後に、現在は国際仏教学大学院大学となっているかつて第六天町の徳川慶喜公屋敷にあった大銀杏を見た井出さんのお気持ちのくだりには、胸にくるものがあった。
大正から激動の昭和を駆け抜け平成を生き抜いたかつてのお転婆姫様を、大銀杏がただただ見下ろしている。

人がなくなっても、残るものとは何か。
読了後、そんなことをちょっと思った。

朝ドラになりませんかね。
NHKさん、いかがでしょうか。

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徳川おてんば姫
著: 井出久美子
出版社: 東京キララ社